club 7UP (セブンアップ) 小山・西口 キャバクラ

栃木県小山市中央町3-1-11 美季ビル1F TEL:0285-30-7868
  • お気に入り登録お気に入り登録
★
★
★

キャンセル

保存

ブログ

十一月三日 犬を飼っていた家

2026年11月03日 21時45分

あなたの落とし物、預かっています

十一月三日 犬を飼っていた家

子どものころ、犬を飼っていた。

名前はコロ。

茶色の雑種で、片方の耳だけが折れていた。

小学校から帰ると、いつも門の前で待っていた。

私が泣いている日は、顔を舐めに来た。

雷が鳴ると、物置の下へ潜り込んだ。

そんな犬だった。

だから、実家へ届いたという電話を、母が不思議がった理由が分からなかった。

「犬の首輪を預かってるって」

「コロの?」

電話の向こうで、母が黙った。

「誰?」

「昔、飼ってたでしょ」

母は言った。

「うち、犬なんか飼ったことないよ」

*

母も、もう七十を過ぎていた。

忘れてしまったのだと思った。

保管所の番号を教えてもらい、私から連絡した。

女が出た。

「お名前をお願いします」

名乗ると、すぐに話が通じた。

「茶色の革製の首輪ですね」

「迷子札は、ついていますか」

「はい」

「コロって、書いてありますか」

女は少し間を置いてから答えた。

「ご確認いただけます」

保管所は、実家から二駅先にあった。

古い商店街の、細い路地の奥。

曇りガラスの扉に「お受取り」と書いてあった。

*

首輪は、確かにコロのものだった。

赤茶色の革。

錆びた留め具。

黄色い、骨の形をした迷子札。

私は指で札を裏返した。

そこには、実家の電話番号があった。

市外局番から、間違いなかった。

表には、ひらがなで「ころ」。

子どものころの、私の字だった。

懐かしい、と思った。

同時に、胸の奥がひどく苦しくなった。

コロがどうなったのか。

いつから、いなくなったのか。

そこだけが思い出せなかった。

「どこで見つかったんですか」

女は受取用紙を置いた。

「お引取りになりますか」

私はうなずいた。

署名していると、用紙の端に、小さな字が見えた。

鉛筆で書かれていた。

〈何と一緒に落ちていたか、聞いてください〉

私は顔を上げた。

「この首輪、何かと一緒にありましたか」

女は私を見た。

それから、カウンターの下へ手を伸ばした。

「こちらもお付けします」

出てきたのは、古い鎖だった。

首輪の金具に、つながっていた。

私は鎖を持ち上げた。

先端は切れていた。

切断面だけが、新しかった。

*

首輪を持って、実家へ行った。

母は台所で夕飯を作っていた。

見せると、眼鏡をかけ直した。

「知らないねえ」

「ほら、これ、私の字でしょ」

「字は似てるけど」

母は迷子札の番号を見た。

それから、首を傾げた。

「これ、お父さんが死んでからの番号だよ」

私は黙った。

父が亡くなったあと、私たちは今の家へ引っ越した。

そのころには、もう私は中学生だった。

コロを飼っていたのは、小学生のころのはずだった。

「番号、変えたんだっけ」

「家も違うでしょう」

母は台所へ戻った。

私は首輪を見た。

記憶の中の家には、門があった。

庭には柿の木。

その根元に、赤い屋根の犬小屋があった。

今の実家には、門も庭もない。

父が生きていたころの家にも、なかった。

*

その夜、夢を見た。

私は小学校から帰ってきた。

門の前に、コロがいた。

尻尾を振っていた。

私はしゃがみ、頭を撫でた。

温かかった。

舌が、指を舐めた。

家の中から、母が呼んだ。

「ご飯よ」

私は立ち上がった。

コロが、服の裾をくわえた。

「あとでね」

離れなかった。

私は振り払った。

そのとき、コロが顔を上げた。

耳の折れた、茶色い犬だった。

目だけが、こちらをじっと見ていた。

「忘れないでね」

目が覚めた。

枕が、濡れていた。

顔を舐められたように、頬が冷たかった。

*

翌朝、母から電話があった。

「思い出したよ」

私はベッドから起き上がった。

「コロのこと?」

「そう。賢い犬だったねえ」

母は笑った。

「雷が嫌いで、物置の下に入って」

私は窓を見た。

昨夜から降り始めた雨が、まだ続いていた。

「お母さん」

「何?」

「物置って、どこの家の?」

母が黙った。

しばらくして、電話の向こうで水道の音がした。

母が、蛇口を閉めた。

「……どこだったかね」

*

私はアルバムを出した。

小学校のころの写真を、一枚ずつ見た。

遠足。

運動会。

父と母との旅行。

犬の写真はなかった。

庭も、犬小屋も写っていなかった。

だが、最後のページに、一枚あった。

昨日まではなかった写真だった。

柿の木のある庭。

赤い屋根の犬小屋。

その前に、私と母が立っていた。

二人とも、今の年齢だった。

母は昨日と同じ服を着ていた。

私は、今着ている部屋着だった。

二人とも笑っていた。

足元に、首輪が落ちていた。

犬はいなかった。

犬小屋の暗がりに、人の指が見えた。

*

保管所へ電話をかけた。

「犬を、思い出すんです」

自分でもおかしな説明だと思った。

「飼ったことがないはずなのに、母まで覚えていて」

女は静かに聞いていた。

「この首輪、本当に私のものですか」

「お名前をご確認いただきました」

「私の名前なんか、書いてなかった」

「迷子札ではなく、内側です」

私は首輪を裏返した。

革の裏に、小さな文字が刻まれていた。

私の氏名だった。

その下に、もう一人。

母の名前。

「これ、どういうことですか」

女が答えた。

「飼っていた記憶が戻りましたら、次は飼っていた場所が戻ります」

私はアルバムを見た。

写真の中の犬小屋が、少し大きくなっていた。

「人の名前は、どんどん増えますから」

電話が切れた。

*

母の家へ向かった。

鍵は開いていた。

台所に、母はいなかった。

食卓には、アルバムが広げてあった。

父の写真だった。

亡くなる少し前、病室で撮った一枚。

ベッドの下から、茶色い毛がはみ出していた。

私は母を呼んだ。

奥から声がした。

「こっち」

廊下を進んだ。

突き当たりに、勝手口があった。

この家に勝手口はない。

その向こうから、母が言った。

「コロ、見つかったよ」

扉の隙間から、湿った土の臭いがした。

私はノブに触れなかった。

下の方で、何かが床を掻いた。

爪の音ではなかった。

人の爪を、一本ずつ押しつけるような音だった。

「お父さんも、いるよ」

母が言った。

私は扉から離れた。

ポケットの中で、鎖が鳴った。

切れていたはずの先端が、勝手口の隙間まで伸びていた。

私は首輪を床に置いた。

鎖が、ぴんと張った。

向こうから、ゆっくり引かれた。

首輪が隙間へ消えた。

すぐに、金具を留める音がした。

母が、優しく言った。

「いい子ね」

*

今、実家の廊下には、突き当たりがない。

細い通路が、暗い庭まで続いている。

近づくと、母の声がする。

父の声もする。

二人とも、私が帰ってくるのを待っている。

コロのことも、私は少しずつ思い出している。

どうしていなくなったのか。

何度も、何度も、鎖を切ったこと。

家族で引っ越すたび、いつも父が言っていたこと。

今度の家では、犬を飼ったことにするな。

まだ全部は、思い出せない。

ただ、一つだけ分かった。

首輪に刻まれていたのは、飼い主の名前ではなかった。

受取票の品名欄には、こう書かれていた。

〈迷子札付き首輪 一点〉

〈同伴者 二名〉

 

 

スーパーイイネ!  [0]
スーパーイイネをもっと見る
イイネ! [0]

※( )は、体験談投稿数です。

RSS1.0フィード RSS2.0フィード
プロフィール
女の子の名前

名前:りょう(リョウ) [20才]
T220
肩書き:おれかおれ以外か
血液型:O型
前職:OL
出身地:栃木県
お酒・タバコ:飲めない・吸わない

最近のブログ
過去のブログ
・2026年11月(5)
・2026年10月(31)
・2026年7月(31)
・2026年6月(30)
・2026年5月(3)
・2026年4月(7)
・2026年3月(1)
店舗写真 club 7UP・セブンアップ - 小山・西口のキャバクラ
住所
栃木県小山市中央町3-1-11
美季ビル1F
営業時間
【火曜~金曜】20:00~LAST
【土曜・日曜】19:00~LAST
Webサイト
セブンアップ公式HP
その他情報
カードが使える

ページトップへ