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お花見

2026年04月19日 19時14分

花見の七つ目

うちの村では、山の下の桜で花見をするとき、昔から一つだけ決まりがあった。

敷物の上に、七人きっちりで座ってはいけない。

六人までにするか、八人以上で座れ。
半端に席が空いても、その一席は埋めるな。
子どものころから、そう言われていた。

理由を聞いても、大人は誰も教えてくれなかった。
ただ祖父だけが一度、酒の席でこう言った。

「七つ目は、人が座る席じゃない」

その春、都会から従兄が帰ってきた。
村の決まりなんて馬鹿らしいと言って、仲間を集めて夜桜の下で花見をすると言い出した。

止めた年寄りもいた。
でも若い連中は笑っていた。

「七人ぴったりのほうが座りいいだろ」

夜、山の下の古い桜に、提灯が二つだけ吊られた。
風もないのに花びらが落ちて、地面が白く濡れたみたいに見えた。

私は少し離れた場所から、それを見ていた。

丸い敷物の上に、男が七人。
酒を回して、大声で笑っている。

最初は何もなかった。

ただ、しばらくして、笑い声が一人分だけ増えた。

誰も気づいていないみたいだった。
でも確かに、七人の中に、知らない声が混じっていた。

高くも低くもない、妙に湿った笑い方だった。

提灯の火が揺れたとき、敷物の上が見えた。

八人いた。

従兄たちの肩のすき間に、いつの間にか一人分、きちんと座っていた。

後ろ姿しか見えない。
黒い髪が長く、着物なのか、影なのか、輪郭がぼやけている。
なのに、そこだけ花びらが一枚も落ちていなかった。

私は声を出そうとした。
でもその瞬間、祖父が後ろから私の口を塞いだ。

「呼ばれるぞ」

祖父の手は震えていた。

敷物の上では、酒が回り、笑い声が続いていた。
誰も、八人目を見ていない。
いや、見えていないのかもしれなかった。

やがて、従兄の一人が不意に言った。

「……あれ、誰だ?」

場が静まる。

そのひと言を待っていたみたいに、八人目が、ゆっくり立ち上がった。

立ち上がった、はずなのに、背が高すぎた。

桜のいちばん低い枝に、頭が触れていた。

提灯がふっと消えた。

その場にいた全員が悲鳴を上げて逃げた。
逃げたはずだった。

でも翌朝、敷物の上には酒瓶が七本、湯のみが七つ、靴が六足しかなかった。

従兄は、それから戻っていない。

村の年寄りは、ただ一度だけ山のほうを向いて手を合わせたあと、何も言わなかった。

その日から、決まりが一つ増えた。

もし七人で座ってしまったら、絶対に数え直すな。

足りないことに気づくから。

 

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