庭に立つ知らない母を - りょう - club 7UP・セブンアップ - 小山・西口のキャバクラ
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庭に立つ知らない母を
2026年06月27日 16時51分
庭に立つ知らない母
実家の庭には、古い柿の木がある。
俺が子どものころからずっとあって、秋になると母がよく柿を取っていた。
「高いところは危ないから、あんたは下で見てなさい」
そう言って、母は脚立に上っていた。
父が亡くなってから、母は一人で実家に住んでいた。
俺は月に一度くらい様子を見に行っていたが、正直、面倒に思うこともあった。
その日も、仕事帰りに実家へ寄った。
時刻は夜八時すぎ。
玄関の電気はついていない。
でも、庭の方に人影が見えた。
柿の木の下に、母が立っていた。
薄いカーディガンを羽織り、じっと木を見上げている。
「母さん?」
声をかけても返事がない。
俺は庭へ回った。
母は背中を向けたまま、柿の木を見ている。
「こんな時間に何してんの」
すると母は、ゆっくり言った。
「落ちるのを待ってるの」
「柿?」
「ううん」
母は首を少しだけ傾けた。
「私」
意味が分からなかった。
「何言ってんだよ。寒いから中入れよ」
俺が近づくと、家の中から声がした。
「誰と話してるの?」
母の声だった。
俺は振り返った。
台所の窓に、本物の母が立っていた。
エプロン姿で、怪訝そうにこちらを見ている。
じゃあ、目の前にいるこれは誰だ。
俺はゆっくり前を向いた。
柿の木の下の母は、まだ背中を向けている。
本物の母が玄関から飛び出してきた。
「こっち来なさい!」
母は俺の腕をつかみ、家の中へ引っ張った。
玄関を閉め、鍵をかける。
チェーンまでかけた。
俺は混乱して聞いた。
「あれ、何?」
母は青い顔で言った。
「見ちゃったのね」
母によると、それは昔から庭に出るらしい。
雨の日や、風の強い夜に、家族の誰かの姿をして柿の木の下に立つ。
そして、落ちるのを待っている。
「何が落ちるんだよ」
母は答えなかった。
その夜、俺は実家に泊まることにした。
母は雨戸を全部閉めた。
「庭を見ちゃだめ。声をかけられても返事しちゃだめ」
そう言われた。
深夜一時。
風が強くなった。
雨戸がガタガタ鳴る。
俺は居間で横になっていたが、眠れなかった。
すると、庭の方から声がした。
「ねえ」
母の声だった。
「開けて」
俺は体を固くした。
本物の母は、寝室で寝ているはずだ。
声は庭から聞こえる。
「寒いの」
「入れて」
俺は返事をしなかった。
すると、声が変わった。
今度は、子どものころの俺の声だった。
「お母さん、落ちちゃうよ」
その瞬間、寝室のふすまが開いた。
母が真っ青な顔で出てきた。
「今の声、聞こえた?」
俺はうなずいた。
母は震えながら言った。
「昔も、同じ声がしたの」
「昔?」
「あなたが七歳のころ」
俺は何も覚えていなかった。
母は話し始めた。
俺が七歳の秋。
母は柿を取るために脚立へ上った。
そのとき、下から俺の声がしたらしい。
「お母さん、落ちちゃうよ」
母が振り返ると、庭に俺が立っていた。
でも、本物の俺はその時間、家の中で昼寝していた。
驚いた母は脚立を踏み外し、落ちた。
幸い命に別状はなかったが、足を骨折した。
その日から母は、柿の木に近づかなくなった。
「じゃあ、あれは昔から俺の声も真似してたのか」
母は小さくうなずいた。
そのとき、玄関のチャイムが鳴った。
ピンポーン。
深夜一時半。
こんな時間に誰も来るはずがない。
続いて、玄関の外から父の声がした。
「ただいま」
父は、十年前に亡くなっている。
母が口元を押さえた。
「開けちゃだめ」
玄関の向こうで、父の声が続く。
「庭にいるぞ」
「母さんが、木から下りてこない」
俺は玄関へ近づきかけた。
母が俺の腕をつかむ。
「だめ!」
でも、次の瞬間。
庭の方で、ドサッと重い音がした。
何かが木から落ちた音。
母は悲鳴を上げた。
俺は反射的に雨戸の隙間から庭を見てしまった。
柿の木の下に、母が倒れていた。
いや、本物の母ではない。
母の形をした何か。
首がありえない方向に曲がり、手足が変な角度で折れている。
それでも、その顔だけはこっちを向いていた。
そして笑っていた。
母が俺の目を塞いだ。
「見るな!」
その瞬間、庭の何かが言った。
俺の声で。
「見たね」
玄関のチャイムが鳴り続ける。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
外の父の声が、だんだん低くなっていく。
「開けろ」
「落ちたぞ」
「次は、お前が拾いに来い」
母は震えながら、仏壇の引き出しから古い御札を出した。
それを玄関と雨戸に貼った。
すると、チャイムはぴたりと止まった。
庭も静かになった。
朝になってから、俺たちは外を確認した。
柿の木の下には、何もなかった。
倒れた跡もない。
ただ、木の枝に、母のカーディガンと同じ色の布切れが引っかかっていた。
母はそれを見るなり、泣き崩れた。
「もう、ここには住めない」
その日のうちに、母を俺の部屋へ連れて帰った。
実家は売ることにした。
でも、不動産屋から連絡が来たのは、その一週間後だった。
「庭に、どなたかいらっしゃいますか?」
「いません」
「柿の木の下に、女の人が立っているんですが」
俺は電話を切った。
その夜。
母が俺の部屋で寝ていると、ベランダの外から声がした。
「落ちるのを待ってるの」
カーテンの向こうに、母の影が立っていた。
でも、母は俺の隣で眠っていた。
影はゆっくり首を傾けて言った。
「今度は、あなたの家の木から」
プロフィール
名前:りょう(リョウ) [20才]
T220
肩書き:おれかおれ以外か
血液型:O型
前職:OL
出身地:栃木県
お酒・タバコ:飲めない・吸わない
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