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消せない通知

2026年06月22日 17時03分

消せない通知

スマホに、見覚えのない通知が来た。

深夜一時半。

寝る前に画面を見ると、知らないアプリから通知が出ていた。

「明日のあなた」

そんなアプリ、入れた覚えはない。

通知には、こう書かれていた。

三分後、玄関を見ないでください。

意味が分からなかった。

広告か、変な迷惑アプリだと思った。

俺は通知を消そうとした。

でも、消えない。

横にスワイプしても、長押ししても、設定画面を開いても消えない。

アプリ一覧を見ても、そんなアプリは存在しなかった。

「なんだよこれ」

そのとき、玄関の方で音がした。

カタ。

小さな音だった。

俺は反射的に玄関を見そうになった。

でも、通知の文字が頭に残っていた。

三分後、玄関を見ないでください。

俺は布団の中で固まった。

見なければいい。

そう思った。

けれど、人間は「見るな」と言われると見たくなる。

玄関の方から、また音がした。

カタ。

カタ。

今度は、ドアノブが揺れる音に聞こえた。

俺はスマホを握りしめた。

画面の通知が変わっていた。

あと一分。

心臓が速くなる。

誰かが外にいるのか。
泥棒か。
それとも、ただの風か。

俺は警察に電話しようとした。

でも、電話アプリが開かない。

画面には、また通知。

電話しないでください。声を覚えられます。

ぞっとした。

その瞬間、玄関の向こうから声がした。

「すみません」

女の声だった。

「開けてもらえませんか」

俺は息を止めた。

深夜一時半に、知らない女が玄関前にいる。

普通じゃない。

「間違えました」

女は続けた。

「部屋を間違えました。ごめんなさい」

なら、帰ればいい。

そう思った。

だけど女は帰らない。

ドアの向こうで、ずっと立っている気配がする。

スマホの通知がまた変わった。

見ないで。

その直後。

玄関のドアポストが、ゆっくり開いた。

キィ。

俺は布団の中から玄関を見ていない。

でも、音で分かった。

女の声が、ドアポストの隙間から入ってくる。

「いるんですよね」

俺は動かなかった。

「見てください」

見ない。

絶対に見ない。

「私、明日のあなたから来ました」

意味が分からなかった。

「今日、私を見なかったら、あなたは助かります」

女の声は、泣いているようだった。

「でも、見ないと私は帰れません」

スマホが震えた。

通知。

嘘です。

俺は画面を見つめた。

次の通知。

その声を信じないでください。

ドアの向こうの女が、急に笑った。

「通知の方を信じるの?」

俺の手からスマホが落ちそうになった。

なぜ、画面を見ていることが分かる。

女は続けた。

「それ、私が送ってるんだよ」

スマホの通知が変わる。

違います。

女が言う。

「私は明日のあなた」

通知が出る。

私は昨日のあなた。

頭がおかしくなりそうだった。

玄関の方から、ズル、と音がした。

何かがドアポストの隙間から入ってきている。

見てはいけない。

でも、床を這う音が、少しずつ近づいてくる。

ズル。

ズル。

ズル。

布団の端に、冷たいものが触れた。

俺は反射的にスマホのライトをつけた。

見てしまった。

床には、細い腕があった。

玄関から伸びている。

長すぎる腕。

関節がいくつもあり、指先だけが俺の布団を掴んでいた。

俺は悲鳴を上げた。

その瞬間、スマホの通知が赤くなった。

見ましたね。

玄関のドアが開いた。

鍵は閉めていたはずなのに。

チェーンもかけていたはずなのに。

隙間から、女が入ってきた。

白い服。
長い髪。
顔は見えない。

でも、手にスマホを持っていた。

俺と同じ機種だった。

女は俺の目の前で立ち止まり、画面をこちらに向けた。

そこには、通知が出ていた。

昨日のあなたを見つけました。

女の髪の奥で、口だけが笑った。

「やっと、代われる」

部屋の電気が消えた。

気づくと、朝だった。

俺は布団の中にいた。

玄関の鍵もチェーンも閉まっている。

床に腕なんてない。

変なアプリもない。

夢だったのかと思った。

でも、スマホを見ると、一件だけ通知が残っていた。

「明日のあなた」

そこには、こう書かれていた。

今夜、あなたは誰かの玄関に行きます。

俺はすぐにスマホを初期化した。

それでも通知は消えなかった。

電源を切っても、画面は勝手につく。

通知は一分ごとに変わっていく。

白い服を着てください。

髪を顔にかけてください。

声は優しくしてください。

そして、最後の通知。

深夜一時半、昨日のあなたに会いに行ってください。

その夜。

気づくと俺は、知らないアパートの前に立っていた。

白い服を着て。

髪を顔に垂らして。

手にはスマホ。

画面には、送信待ちの通知が表示されていた。

三分後、玄関を見ないでください。

 

 

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