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鍵を閉めたはずなのに

2026年06月18日 19時15分

鍵を閉めたはずなのに

一人暮らしを始めてから、俺は鍵だけは必ず確認するようにしていた。

玄関の鍵。
チェーン。
窓の鍵。

寝る前に全部確認する。

昔から心配性だった。

その夜も、いつも通りだった。

仕事から帰って、飯を食べて、風呂に入って、スマホを見ながら布団に入る。

寝る前に玄関へ行き、鍵を確認した。

カチャ。

閉まっている。

チェーンもかかっている。

窓も閉まっている。

「よし」

そう言って電気を消した。

眠りかけたころ。

玄関の方で、音がした。

カチャ。

鍵の音だった。

俺は目を開けた。

気のせいかと思った。

でも、もう一度。

カチャ。

誰かが、玄関の鍵を外から開けようとしている音。

俺は一気に目が覚めた。

スマホを握りしめ、玄関の方を見た。

部屋は真っ暗。

玄関のすりガラスだけが、外廊下の明かりでぼんやり光っている。

カチャ。

今度ははっきり聞こえた。

鍵穴に、何かが差し込まれている。

俺は声を出そうとした。

でも、喉が固まっていた。

カチャ。

カチャ。

次の瞬間。

鍵が開いた。

俺は凍りついた。

でも、チェーンがある。

チェーンさえあれば、ドアは少ししか開かない。

そう思った。

玄関のドアが、ゆっくり開いた。

ギィ。

チェーンが張る音がした。

隙間は十センチほど。

そこから、暗い廊下が見えた。

誰もいない。

俺は震えながら、布団の中から見ていた。

すると、ドアの隙間から、白い指が入ってきた。

細い指。

長すぎる指。

指はチェーンに触れた。

カチャ。

ありえないことに、チェーンが内側から外れた。

ドアがさらに開く。

俺は叫んだ。

「誰だ!」

その瞬間、ドアの動きが止まった。

廊下から、女の声がした。

「入ってもいい?」

俺は返事をしなかった。

女は続けた。

「鍵、開いてたよ」

そんなはずはない。

俺は閉めた。

絶対に閉めた。

俺はスマホで警察に電話しようとした。

画面をつけた瞬間、通知が来ていた。

差出人は、俺自身の番号。

メッセージは一言。

あけたよ

手が震えた。

玄関の外の女が、くすくす笑った。

「自分で開けたんでしょ?」

違う。

俺は開けていない。

そう思ったとき、玄関の鏡が目に入った。

暗い部屋の中、鏡には俺の後ろ姿が映っている。

布団の上で固まっている俺。

そして、その背後に。

もう一人の俺が立っていた。

そいつは俺と同じ顔で、玄関の方を見て笑っていた。

俺は振り返った。

誰もいない。

鏡を見る。

そいつはまだいる。

そいつは、ゆっくり口を動かした。

はやく入れてあげなよ

玄関のドアが、また少し開いた。

冷たい空気が部屋に流れ込む。

女の足が見えた。

裸足だった。

濡れているのか、床に黒い足跡がついていく。

一歩。

また一歩。

俺は布団から飛び出し、ベランダへ逃げようとした。

でも、窓が開かない。

さっき自分で鍵を閉めたから。

鍵を回そうとした。

その瞬間、背後から俺の声がした。

「そこも閉めたよ」

俺は振り返った。

誰もいない。

でも、玄関の鏡の中では、もう一人の俺が笑っていた。

そして女は、部屋の中に入っていた。

長い髪で顔は見えない。

白い服はびしょ濡れ。

足跡だけが、俺の方へ近づいてくる。

俺はスマホを握りしめて、110番を押した。

でも、発信画面にはならなかった。

代わりに、録音アプリが勝手に起動していた。

再生ボタンが表示されている。

録音日時は、今日の午前二時。

まだ、その時間にはなっていない。

俺は震えながら再生した。

最初に聞こえたのは、俺の声だった。

「鍵、閉めた?」

次に、女の声。

「閉めたよ」

そして、もう一人の俺の声。

「じゃあ、開けるね」

そこで録音は終わった。

玄関の女が、ゆっくり顔を上げた。

髪の隙間から見えた顔は、女じゃなかった。

俺の顔だった。

ただ、目だけが真っ黒だった。

そいつは笑って言った。

「鍵ってさ、外から閉めるためだけじゃないんだよ」

次の瞬間、部屋の電気が消えた。

気づくと朝だった。

俺は玄関の前で倒れていた。

鍵は閉まっていた。
チェーンもかかっていた。
窓も閉まっていた。

何も起きていないように見えた。

でも、玄関の内側に、黒い足跡が残っていた。

外からではない。

部屋の奥から玄関へ向かう足跡。

その先には、俺の靴がきれいに揃えて置かれていた。

中には、濡れた紙切れが入っていた。

そこには、俺の字でこう書かれていた。

今夜は、そっちが外

 

 

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