club 7UP (セブンアップ) 小山・西口 キャバクラ

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~こわいはなし~ じこぶっけんのないけん

2026年06月12日 13時34分

事故物件の内見

不動産屋は、部屋に入る前にこう言った。

「一応、事故物件です」

俺は驚かなかった。

むしろ、それで家賃が安いならありがたいと思っていた。

駅徒歩五分。
築浅。
角部屋。
風呂トイレ別。

それで相場の半額。

多少のことなら我慢できる。

「前の住人が亡くなったんですか?」

俺が聞くと、不動産屋は少し言いにくそうにした。

「はい。ただ、自殺や事件ではなくて……」

「病死ですか?」

「いえ」

不動産屋は鍵を開けながら言った。

「内見中に、亡くなりました」

意味が分からなかった。

「内見中?」

「この部屋を見に来た方が、です」

ドアが開いた。

部屋の中は、普通だった。

白い壁。
きれいなフローリング。
大きめの窓。

嫌な匂いもしない。

「その人、何があったんですか?」

俺が聞くと、不動産屋は視線をそらした。

「浴室で倒れていたそうです」

「持病とか?」

「それが、分からないんです」

不動産屋は早口になった。

「警察も調べたんですが、外傷なし。薬物反応なし。心臓にも異常なし。ただ……」

「ただ?」

「顔だけが、ひどく怯えていたそうです」

その話は気味が悪かったが、部屋自体はかなり良かった。

俺はリビングを見て、キッチンを見て、収納を開けた。

どこも普通。

最後に浴室を見た。

白いユニットバス。

鏡。

シャワー。

浴槽。

清掃も済んでいて、何もおかしくない。

ただ、浴室の鏡だけが妙に曇っていた。

不動産屋がタオルで拭く。

それでも曇りが取れない。

「湿気ですかね」

不動産屋は無理に笑った。

俺は鏡をじっと見た。

曇った鏡の奥に、俺と不動産屋が映っている。

その後ろ。

浴室のドアの向こうに、誰かが立っていた。

俺は振り返った。

誰もいない。

「今、誰かいました?」

不動産屋の顔が固まった。

「見えました?」

その言い方で、俺は察した。

この人も知っている。

「何なんですか、この部屋」

不動産屋は黙っていた。

そのとき、浴室のドアが、内側からゆっくり閉まった。

カチャ。

俺と不動産屋は浴室の中にいた。

ドアの外には誰もいない。

なのに、鍵が閉まる音がした。

不動産屋がドアノブを回す。

開かない。

「え、ちょっと……」

不動産屋の声が震えた。

俺も押した。

びくともしない。

急に浴室の照明が暗くなった。

鏡の曇りが、ゆっくり広がっていく。

そして、曇った鏡に文字が浮かび上がった。

つぎは どっち

不動産屋が悲鳴を上げた。

「やめてください! 私じゃない! 私は案内してるだけです!」

俺はその言葉に引っかかった。

「どういう意味ですか?」

不動産屋は答えなかった。

代わりに、鏡の中で何かが動いた。

俺たちの後ろ。

本当は壁しかないはずの場所。

そこに、スーツ姿の男が立っていた。

顔は青白く、口を大きく開けている。

前に内見で死んだ人だと思った。

男は鏡の中から、俺たちを指さした。

いや。

指さしていたのは、不動産屋だった。

不動産屋が泣きながら首を振る。

「違う! 私は悪くない! あの時も、ちゃんと説明した!」

鏡の中の男の口が動いた。

音はない。

でも、何を言っているか分かった。

おまえが とじた

俺は不動産屋を見た。

不動産屋は、浴室の隅で震えていた。

「前の内見の人……閉じ込めたんですか?」

「違う! 少しだけです!」

不動産屋は叫んだ。

「あの人が怖がりすぎるから、冗談で……すぐ開けるつもりだったんです。でも、鍵が開かなくなって……」

その瞬間、シャワーから水が出た。

冷たい水ではなかった。

ぬるく、生臭い水。

浴槽の排水口から、黒い髪の毛がゆっくり伸びてくる。

不動産屋がドアを叩いた。

「開けて! 開けてください!」

鏡の文字が変わった。

あけたら ひとり

俺は意味が分からなかった。

次の瞬間、ドアの鍵が開いた。

カチャ。

不動産屋はすぐにドアへ飛びついた。

俺より先に出ようとした。

でも、浴室の鏡の中から、青白い手が伸びた。

現実の鏡を突き破るように。

その手は不動産屋の肩をつかんだ。

「助けて!」

俺は反射的に浴室から飛び出した。

後ろで、ドアが閉まった。

ドン。

中から不動産屋の叫び声が聞こえた。

ドアノブを回そうとした。

でも、体が動かなかった。

中で何かが暴れる音。

水が流れる音。

そして、不動産屋の声が急に止まった。

しばらくして、浴室のドアが少しだけ開いた。

中は真っ暗だった。

俺は逃げた。

その後、不動産屋は行方不明になった。

警察には、俺が疑われた。

でも浴室には誰もいなかった。

血もない。
髪の毛もない。
水滴すら残っていない。

ただ、鏡に曇った文字が残っていた。

内見ありがとうございました

それから一ヶ月後。

ネットで賃貸物件を見ていたら、あの部屋が出てきた。

家賃はさらに安くなっていた。

説明欄にはこう書かれていた。

告知事項あり。浴室確認必須。

写真を見ると、浴室の鏡に、うっすら人影が二つ映っていた。

一人はスーツ姿の男。

もう一人は、あの不動産屋だった。

そして二人とも、こちらを見て笑っていた。

 

 

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