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~怖い話~夜勤中の防犯カメラ

2026年06月13日 15時54分

夜勤中の防犯カメラ

俺が働いていたスーパーは、深夜に品出しをする店だった。

閉店は夜十一時。
そこから朝五時まで、店内には夜勤スタッフだけが残る。

俺の担当は、飲料売り場と冷凍食品コーナー。

もう一人の先輩、田口さんは、事務所で防犯カメラを確認しながら発注作業をしていた。

ある日の午前二時。

インカムから田口さんの声がした。

「おい、今どこにいる?」

「飲料です」

「冷凍食品コーナー、行ったか?」

「まだ行ってないです」

少し沈黙があった。

「じゃあ、誰だ」

背中が冷たくなった。

「誰かいるんですか?」

「カメラに映ってる。冷凍食品の前に、女が立ってる」

店は閉店済み。
入口も裏口も施錠してある。

客がいるはずはない。

俺はモップの柄を握って、冷凍食品コーナーへ向かった。

通路の角から、そっと覗く。

誰もいない。

冷凍ケースの低いモーター音だけが響いていた。

「誰もいませんよ」

インカムに言うと、田口さんがすぐ返した。

「いる。お前の目の前にいる」

俺は全身が固まった。

「いや、いませんって」

「カメラだと、お前の真正面に立ってる」

俺は目の前を見た。

冷凍ケースのガラス扉。
中にはアイスや冷凍うどんが並んでいる。

そのガラスに、俺の姿が映っていた。

そして、俺のすぐ後ろに。

髪の長い女が映っていた。

俺は振り返った。

誰もいない。

もう一度ガラスを見る。

女はまだ映っている。

顔は髪で見えない。
でも、頭だけが少しずつ、俺の方へ傾いていた。

インカムから田口さんの震えた声がした。

「動くな」

「なんでですか」

「そいつ、お前が振り返ったときだけ近づいてる」

俺は息ができなくなった。

さっき振り返った。
その一回で、女は近づいたらしい。

俺はガラスだけを見ることにした。

女は俺の背後にいる。

でも現実にはいない。

カメラとガラスにだけ映っている。

田口さんが言った。

「今から俺がそっち行く。絶対に振り返るな」

その直後。

店内放送が流れた。

本来、閉店後には流れないはずの自動放送。

『本日はご来店ありがとうございます』

古い女性の声。

『まもなく、閉店のお時間です』

俺は小さく言った。

「もう閉店してるだろ……」

すると、冷凍ケースのガラスが白く曇り始めた。

内側からではない。

俺の息でもない。

ガラスの表面に、指でなぞったように文字が浮かんだ。

まだ いる

俺は叫びそうになった。

インカムに田口さんの声が入る。

「おい、今すぐ逃げろ」

「振り返るなって言ったじゃないですか」

「違う」

田口さんの声は震えていた。

「防犯カメラ、今見たら、売り場に女が二人いる」

心臓が跳ねた。

ガラスに映る女は一人。

じゃあ、もう一人はどこに。

その答えは、すぐ分かった。

冷凍ケースの中。

アイスの棚の奥。

白く霜のついたガラスの向こうで、女の顔がこっちを見ていた。

目だけが異様に大きい。

口は笑っていた。

その瞬間、店内の照明が一斉に落ちた。

非常灯だけが赤く光る。

インカムから、田口さんの荒い息が聞こえた。

「事務所のカメラが全部、お前を映してる」

「どういうことですか?」

「全カメラに、お前が映ってる。レジにも、バックヤードにも、駐車場にも、全部」

俺は意味が分からなかった。

「俺は冷凍食品の前にいますよ」

「違う」

田口さんが泣きそうな声で言った。

「お前の後ろにいる女が、全部のカメラで、お前の顔して立ってる」

その直後。

背後から、俺の声がした。

「田口さん」

俺は何も言っていない。

でも、俺の声が背後で続けた。

「こっち来てください」

インカムの向こうで、田口さんが息を止めたのが分かった。

「お前……今、喋ったか?」

「喋ってないです!」

でも、背後の俺の声は続けた。

「助けてください」

「寒いです」

「冷凍庫に閉じ込められました」

田口さんが叫んだ。

「お前じゃない! それ、お前じゃない!」

その瞬間、冷凍ケースの扉が一つ、ゆっくり開いた。

中から白い冷気が流れ出す。

冷気の奥で、女が言った。

俺の声で。

「振り返って」

もう限界だった。

俺は目をつぶって走った。

通路にぶつかり、棚に肩を打ち、転びながらも事務所まで逃げた。

田口さんが中から鍵を開けて、俺を引きずり込んだ。

事務所のモニターには、店内の映像が映っていた。

冷凍食品コーナー。

そこに、女が一人立っている。

そして、その横に。

俺が立っていた。

いや、俺の形をした何かが、カメラに向かって笑っていた。

田口さんはすぐに警察を呼んだ。

警察が来たとき、店内には誰もいなかった。

冷凍ケースも閉まっていた。

ただ、一つだけ異常があった。

冷凍食品コーナーの防犯カメラに、霜がびっしりついていた。

レンズの内側に。

そして霜の中に、指で書いたような文字が残っていた。

ひとり のこして

その日以来、俺は夜勤を辞めた。

でも、田口さんは辞めなかった。

人手が足りないからと、翌週も夜勤に入った。

そして午前二時過ぎ、店から連絡があった。

田口さんが消えた。

事務所の防犯カメラには、最後の映像が残っていた。

田口さんがモニターを見ている。

その背後で、事務所のドアが静かに開く。

入ってきたのは、俺だった。

でも俺はその時間、家にいた。

映像の中の俺は、田口さんの肩に手を置いて、耳元でこう言った。

「次は、あなたが見張り番」

 

 

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