クラブグリム・小牧店 (クラブグリムコマキテン) 小牧 キャバクラ

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風を追いかけて 第十四章 - 秋色に染まる街 -

2026年10月03日 00時33分

 
いつの間にか、風が変わっていた。
 
夏の熱を含んでいた風が、今は頬を撫でるたびに、ひんやりとした感触を残していく。
 
ヘルメットの隙間から入り込む風。
 
その冷たさに、思わず少しだけ背筋が伸びる。
 
「秋が来たな。」
 
レブルのエンジンをかける。
 
低く響く鼓動とともに、朝の空気が震える。
 
走り出すと、どこからか金木犀の香りが流れてきた。
 
甘く、どこか懐かしい香り。
 
姿は見えない。
 
それでも、香りだけで秋の訪れが分かる。
 
バイクに乗っていると、季節は目だけで感じるものじゃない。
 
肌で感じる。
 
鼻で感じる。
 
耳で感じる。
 
そして、時には舌でも感じる。
 
秋は、五感すべてで味わう季節なのかもしれない。
 
山道へ入る。
 
木々の間から差し込む朝日は、夏よりも少し柔らかい。
 
道路には落ち葉が舞い、タイヤがその上を通るたび、
 
「カサッ……」
 
乾いた小さな音がする。
 
葉が擦れる音。
 
遠くから聞こえる鳥の声。
 
時折、風が木々を揺らす音。
 
夏の蝉の大合唱とは違う。
 
秋の山には、静けさの中にたくさんの音があった。
 
少し走ったところで、目の前に赤い景色が広がった。
 
彼岸花。
 
一輪、二輪どころじゃない。
 
辺り一面を埋め尽くすように咲いている。
 
まるで大地に敷かれた、赤い絨毯。
 
深い緑の中に浮かび上がる赤。
 
その鮮烈な色に、思わずレブルを停めた。
 
ヘルメットを脱ぐ。
 
ひんやりとした風が髪を撫でる。
 
彼岸花の細い茎が風に揺れ、
 
サワサワ……
 
と、かすかな音を立てている。
 
近づいてみる。
 
赤い花びらは、細く反り返り、まるで炎のようだった。
 
太陽の光を受けると、赤がさらに鮮やかになる。
 
その光景を見ていると、不思議な感覚になる。
 
綺麗なのに、どこか寂しい。
 
華やかなのに、どこか儚い。
 
秋という季節そのものが、そこに咲いているようだった。
 
風に乗って、土と草の匂いがする。
 
少し湿った地面。
 
乾き始めた落ち葉。
 
遠くから漂ってくる金木犀の甘い香り。
 
全部が混ざり合って、秋だけの匂いを作っている。
 
しばらくその場に立っていた。
 
時間を忘れるほど、静かな景色だった。
 
やがてレブルに戻り、再び走り出す。
 
昼になると、少しだけ腹が減ってきた。
 
立ち寄った店で、温かい食事を口にする。
 
湯気とともに立ち上る香り。
 
口に入れた瞬間、体の内側から温かくなる。
 
夏なら冷たいものを選んでいた。
 
でも今は、この温かさが心地いい。
 
季節が変われば、欲しくなるものまで変わっていく。
 
それもまた、旅の楽しみだった。
 
夕方。
 
街へ戻る頃には、空がゆっくりと茜色に染まっていた。
 
日が沈むのが、夏より早い。
 
「秋は、夜が来るのも早いな。」
 
そう思いながら走っていると、遠くに赤レンガの建物が見えてきた。
 
半田赤レンガ建物。
 
歴史を感じさせる赤いレンガ。
 
昼間に見ても美しいその建物は、夜になると別の顔を見せる。
 
辺りが暗くなるにつれて、一つ、また一つと光が灯っていく。
 
イルミネーション。
 
暖かな光がレンガの壁を照らし、赤茶色の表面に柔らかな陰影を作っている。
 
昼間の彼岸花とは違う「赤」。
 
自然が生み出した赤と、人が灯した赤。
 
その二つが、今日という一日の中で繋がったような気がした。
 
レブルを停める。
 
エンジンを切った瞬間、静けさが戻ってくる。
 
少し冷えた空気。
 
遠くで聞こえる人々の話し声。
 
足元から伝わる秋の夜の冷たさ。
 
そして、イルミネーションの光。
 
温かい飲み物を両手で包む。
 
カップから立ち上る湯気が、冷え始めた鼻先をかすめる。
 
一口飲む。
 
温かさが喉を通り、ゆっくりと体の中へ落ちていく。
 
「……うまい。」
 
夏の旅で飲んだ、あのキンキンに冷えたコーラとは正反対。
 
でも、今はこの一杯がたまらなく美味しい。
 
季節が変われば、同じ旅でも感じ方が変わる。
 
それが面白い。
 
ふとレブルを見る。
 
イルミネーションの光がボディに映り、赤や白の光がゆっくりと揺れている。
 
夏の灼熱。
 
大雨。
 
雲海。
 
虹。
 
花火。
 
そして今、秋の夜。
 
この相棒と、一つずつ季節を越えてきた。
 
風の温度も。
 
道の匂いも。
 
空の色も。
 
エンジンの鼓動も。
 
旅先で口にする一杯の味も。
 
すべてが記憶になっていく。
 
僕はもう一度、冷たい秋の夜風を吸い込んだ。
 
「秋も、いいな。」
 
ヘルメットをかぶる。
 
シールドを下ろす。
 
レブルのエンジンに火を入れる。
 
低い鼓動が、夜の街に響いた。
 
走り出すと、冷たい風が頬を撫でる。
 
その風の中に、ほんの少しだけ金木犀の香りが混ざっていた。
 
サイドミラーを見る。
 
イルミネーションの光が、遠ざかっていく。
 
やがて小さな光になり、夜の向こうへ消えていく。
 
でも、その景色は消えない。
 
今日、見た赤。
 
聞いた音。
 
感じた風。
 
嗅いだ香り。
 
そして味わった温かさ。
 
五感で刻んだ秋は、きっとこれからも僕の中に残り続ける。
 
季節は、少しずつ冬へ向かっている。
 
だからこそ、今しか見られない景色を追いかけたい。
 
レブルの鼓動を聞きながら、僕はアクセルをゆっくり開けた。
 
冷たい秋風を切り裂いて。
 
次の景色へ。
 
次の季節へ。
 
そしてまた――
 
風を追いかけて

 




























































































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