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夢小説(ダブルミーニング)其の弐

2025年05月17日 22時07分

こんな夢を見た。


明日も仕事なのに、どうしても眠れなかった。


枕が冷たいのに、胸の奥は熱く、火の粉が舞うように、ステージ上の彼が脳裏で元気にツッコミをしていた。


彼が目を細めるたびに、舞台の光が跳ねる。


その光の粒が、瞼の裏でざわめいて、私はどうしてもまどろむことができなかった。


諦めて、部屋を出た。


真夜中の神田川は、静かに呼吸をしていた。


等間隔に灯る街灯が、水面に影を落とし、それが微かに揺れていた。


まるで夢と現の境がほつれ、川の上に流れていくようだった。


しばらく歩くうちに、人の気配がした。


遠くから近づいてくるひと影。


ふと見れば、それはどこか見知った顔だった。


数時間前までステージ上にいた彼である。


イヤホンで何かを聴きながら、夜道をゆっくり歩いてくる。


話しかけるべきか迷った。


彼は芸人である。私の知らない顔も、無数に持っている。


ネタ中以外は、そこまで気が利くことを言わないことを、ある程度は理解している。


この夜の中で声をかけたところで、彼にとって私は、ただの一観客かもしれない。


だが、すれ違った瞬間、呼吸が止まった。


どうしようもなく、我慢できなかった。


「……××××!」


名を呼ぶと、彼は振り返った。


どこか眠たげで、それでいて、こちらを見た目がやけに真剣だった。


「……今日のライブも、面白かったです。」


話をして歩いた。


彼は思いのほかよく話す人だった。


私が黙っていると、その静けさすらも織り込むように、落ち着いた声で、次の言葉を差し出してくる。


やがて彼はふいに言った。


「ライブの時、いつもあなたがどこに座っているかさがすんです」


私は立ち止まった。


足元のアスファルトの上に、彼の言葉が落ちて、小さく鳴った気がした。


「私のこと……認知していたのですね」


「ええ。Twitterも見てます。投げ銭もありがとうございます。」


言葉にすると、たったそれだけのことなのに、胸の奥がかすかに疼いた。


川の音が静かに耳を撫でた。


街は眠っていて、風の中にいる彼と私だけが、取り残されていた。


彼は少し黙って、それからこちらを見た。


その目が、真剣で、笑いの成分を一滴も含んでいなかった。


「……お願いがあるんです」


そう言った瞬間に、目が覚めた。


部屋はまだ夜だった。


枕の冷たさは変わらず、川の音はもうどこにもなかった。


けれど、胸の奥にはまだ、“お願い”の続きを聴きたがっている私が残っていた。


もう一度目を閉じる。


彼の可愛らしい目がこちらを見ている。


私は息を呑む。


「投げ銭もっと増額してください」

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